自分が興味を持ったことしかできない。
就活を振り返ってみると、「自分が何をやりたいかが見えなかった」と板橋は語る。当時は婚礼・葬祭等、人生の大切なセレモニーに携わる仕事がいいのではないかと考えたり、医療関係にも興味を持ったりと、自分なりに興味のある分野を見つけては企業研究を行っていた。しかし「コレだ!」と実感の持てる仕事には出会えなかった。
そんなときに偶然、ある就職展で見つけた企業がリバイブだった。
「現在の会長が当時は社長で、ご本人が会社の理念や事業内容の話をしてくださったんです。とにかく大きな人という印象で、話し方にも勢いがあり、私はグングン引き込まれました」
その言葉通り、板橋は「どこへ行きたいかが定まらない自分」の行き先として、リバイブを考え始めた。そして、「どこへ行くにしても環境は大切」と考えて、入社を決めた。
「普通の女の子は、廃棄物処分場を見て“キタナイ”と思うかもしれません。けれど、私は“こんなにゴミがある”と驚いたのです。それまでの自分は、ゴミの日に自分の出したゴミが回収されれば、それで終りという感じでしたが、世の中には驚くほど多くのゴミがあり、それを処分している人がいる現実を私は当社で初めて実感しました。私は自分が興味を持ったことしかできないタイプなので、そんな体験を経てこの会社で働こうと心が決まりましたね」。
板橋の決断に対して、母親は「あなたが決めたことに反対するつもりはない」と言い、父親は「土建屋か」とつぶやいたという。板橋はそのつぶやきを聞いて、「あれ?そんなに印象、悪いのかな」と思ったそうだ。友達の中にも「大丈夫?そんなとこ」と心配してくれた人もいた。しかし、板橋の気持ちが揺らぐことはなかった。女性が少ない職場であることは知っていたが、会社の説明をしてくれた同社社員は自分と2〜3歳しか違わない女性だったからである。
長期間にわたるOJTと壁
入社後は半年くらいかけて、廃棄物処分場、廃棄物輸送のドライバー、事務、経理等とさまざまな部署で働く社員のもとで実務研修を受けた。OJTである。現場の先輩社員に同行すると、先輩が汗びっしょりで頑張って働く姿を目の当たりにすることになり、「顔が怖くても、実はやさしくて働き者」の先輩ばかりであることを板橋は知った。現場の先輩社員は説明も丁寧で、何も知らずに入社した板橋にも少しずつ業務の内容がわかってきた。
ところが、入社前に板橋に会社の説明をしてくれた女性の先輩社員は退職することになった。歳の近い女性営業の先輩の存在は板橋にとって大きく、正直なところ、心もとない気持ちになった。しかし、いつまでも不安な気持ちでいるわけにもいかない。
「営業の研修は約半年間の他部署での研修と違い、きちんと教わることができなくて、何をすればいいのか、何をやっているのかが見ているだけではよくわからなかったのです。自分から質問すれば教えてもらえるのですが、わからないことが山積みで、一つひとつの行動を学んでも点と点がつながらず、なぜそうするのかが見えなくて……。そのうちに、この仕事は理解できないという思いが大きくなり、入社1年目の12月には心が折れました」。
本人の言葉通り、職場では上司から「板橋の顔が暗い」と言われた。そんなとき、板橋は内心「そりゃ、暗くもなりますよ」と思ったそうだ。
「処理場の先輩やドライバーさんはとても丁寧に仕事を教えてくれたので、何とか仕事を覚えて恩返ししなければという気持ちがあったこと。そして、私自身も就職のために田舎から出てきて、まだわずかしか経っていなかったことが辞めなかった理由ですね」
そのとき、板橋は会社の戦力にならないままでひっそりと辞めるよりは、自分が「辞める」と言ったときに、多くの人が「えーっ、辞めちゃうの?」と言ってくれるような存在になってから辞めたいと思った。そうした自尊心が苦しい時期の支えになったのである。